幼児用「のぶつなかるた」
保育園・幼稚園用に作成された、幼児用の「のぶつなかるた」20首を掲載しています。
1 障子からのぞいて見ればちらちらと 雪のふる日に鶯がなく
しょうじからのぞいてみればちらちらと ゆきのふるひにうぐいすがなく
父 の書斎のガラス障子から、西の山の方をのぞいて見ると、雪がふっている日なのに鶯が鳴いている。
(五歳作。「よしよし、これが信の初めての歌だ」と父弘綱に言われる)
(五歳作。「よしよし、これが信の初めての歌だ」と父弘綱に言われる)
2 六つに越え九つにして鈴鹿山 ふたたび今日はのぼりけるかな
むつにこえここのつにしてすずかやま ふたたびきょうはのぼりけるかな
父に連れられて六歳の時、鈴鹿山を越えて大阪や京都へ行った。九歳になって、加賀(石川県)や越前(福井県)へと今日はふたたび鈴鹿の山を登っているよ。(八歳作。父弘綱はこの旅を『加越日記』として書く)
3 一すぢの煙をあとにのこしおきて 沖をはるかに船はゆくなり
ひとすじのけむりをあとにのこしおきて おきをはるかにふねはゆくなり
ひとすじの煙を後に残しておいて、沖のはるかむこうを、船は進んでいくよ。(十歳、信綱が上京途次に作る)
4 四日市の時雨蛤、日永の長餅の 家土産まつと父を待ちにき
よかいちのしぐれひながのながもちの いえづとまつとちちをまちにき
父は家へのみやげに、四日市のしぐれ蛤、日永の長餅を持ってきてくれる。そういう父をよく待っていたものである。(父、弘綱は四日市へ講説に行く)
5 いきいきと目をかがやかし幸綱が 高らかに歌ふチューリップのうた
いきいきとめをかがやかしゆきつなが たからかにうたうチューリップのうた
孫の幸綱がいききと目を輝かせ、声高くひびかせて歌っているのは、「チューリップの歌」であるよ。(信綱が病気の時、住事を思い出して)
6 どつちにある、こつちといへば片頬笑み ひらく掌の赤きさくらんぼ
どっちにあるこっちといえばかたほえみ ひらくたなそこのあかきさくらんぼ
孫が両手を閉じて差し出し「どっちにある?」と問う。私が「こっち」と指さすと孫はいたずらっぽく笑って手をひらく。手の中には真っ赤なさくらんぼが。(孫は幸綱である)
7 湯の宿のつんつるてんのかし浴衣 谷の夜風が身にしみるなり
ゆのやどのつんつるてんのかしゆかた たにのよかぜがみにしみるなり
温泉宿のかし浴衣を着たら、つんつるてんで手や足がはみだした。谷から吹いてくる夜風が身にしみた。(四日市の湯の山での作。信綱はおおがらな人だった)
8 蝉時雨石薬師寺は広重の 画に見るがごとみどり深しも
せみしぐれいしやくしじはひろしげの えにみるがごとみどりふかしも
江戸時代、東海道の宿場にあった石薬師寺。そこで蝉がひとしきり鳴き続けている。浮世絵画家の広重の絵のように木の緑がとても深い。(石薬師寺歌碑)
9 秋高き鈴鹿の嶺の朝の雲 はろかに見つつわがこころすがし
あきたかきすずかのみねのあさのくも はろかにみつつわがこころすがし
秋の天高い鈴鹿山脈のいただきに、秋の雲がかかっている。遠くはるかに、ここからじっと見ていると私の心はさわやかでこころよい。
10 鈴鹿川八十瀬のながれ帯にして すずか並山あき風に立つ
すずかがわやそせのながれおびにして すずかなみやまあきかぜにたつ
鈴鹿川は、多くの浅い川が帯のように流れている。はるかに見れば、秋風のなかに鈴鹿の山々が並び立っている。
11 まりが野に遊びし童今し斯く 翁さびて来つ野の草は知るや
まりがのにあそびしわらわいましかく おきなさびてきつののくさはしるや
子どもの頃、このまりが野(石薬師町)によく遊びにきたものだ。今、このように年老いてやってきた私を、あの時の子どもであると、この草は知っているだろうか。(鞠が野は、鈴鹿市石薬師町にある)
12 生家にゆくと弱かりし母が我をせおひ 徒渉せしか此の甲斐川を
さとにいくとよわかりしははがあをせおい かちわたりせしかこのかいがわを
神戸の実家に行こうというので、母は体が弱かったのに私をおんぶして、この甲斐川(鈴鹿川)を、歩いて渡ってくれたのだなあ。(母、光子の実家は、神戸藩の岡元家)
13 道とへばふるさと人はねもころなり 光太夫の碑に案内せむといふ
みちとえばふるさとびとはねもころなり こうだゆうのひにあないせんという
光太夫の碑への道をたずねると、ふるさとの人は親切だ、自分も案内してついていってあげると言う。(鈴鹿市若松町に大黒屋光太夫の碑がある)
14 ますらをの其名とどむる蒲さくら 更にかをらむ八千年の春に
ますらおのそのなとどむるかばさくら さらにかおらんやちとせのはるに
蒲冠者範頼という強く勇ましい男の名を残しているこの蒲桜よ、なおいっそう咲きほこってほしい、八千年のちの春にも。(鈴鹿市上野町にある歌碑。源頼朝の伝説を詠む。桜は昭和十四年県指定天然記念物)
15 人の世はめでたし朝の日をうけて すきとほる葉の青きかがやき
ひとのよはめでたしあさのひをうけて すきとおるはのあおきかがやき
私が生きている世界は、すばらしいなあ。朝の光をうけて木の葉が透きとおっているよ。青く輝いているよ。
16 白雲は空に浮べり谷川の 石みな石のおのづからなる
しらくもはそらにうかべりたにがわの いしみないしのおのずからなる
ここは湯の山。白い雲はゆったりと浮かんでいる。谷川にある、石、石、石、それぞれはみなそれぞれの姿をしている。(信綱歌碑。四日市湯の山の河川敷に建つ)
17 ゆく秋の大和の国の薬師寺の 塔の上なる一ひらの雲
ゆくあきのやまとのくにのやくしじの とうのうえなるひとひらのくも
晩秋の大和の薬師寺の塔を見上げると、塔の上にひとひらの白い雲が浮かんでいる。
18 呼べど呼べど遠山彦のかそかなる 声はこたへて人かへりこず
よべどよべどとおやまびこのかそかなる こえはこたえてひとかえりこず
幾たび呼んでも、遠くから山彦の声がかすかに答えるだけで、亡き妻はかえってはこない。(愛妻雪子の死)
19 かぜにゆらぐ凌霄花ゆらゆらと 花ちる門に庭鳥あそぶ
かぜにゆらぐのうぜんかずらゆらゆらと はなちるかどににわとりあそぶ
年月が立った古い家に、だいだい色の大きな花びらの凌霄花が風に揺れている。花の散りしく門先に鶏がのんびり遊んでいる。(東北旅行)
20 投げし麩の一つを囲みかたまり寄り おしこりおしもみ鯉の上に鯉
なげしふのひとつをかこみかたまりより おしこりおしもみこいのうえにこい
池の鯉に麩を投げ与えた。一つの麩を鯉は、かこみ、かたまり、もみ合って鯉の上に鯉が重なりあっているよ。