信綱かるた道

平成17年、東海道石薬師宿の北端から南端の1.8kmの間を「信綱かるた道」と名付けた。信綱かるたの歌とそれに添える絵をベニヤ板に焼き付け、これを梅干ざるに取り付けて歌額として、信綱かるた道に28基設置した。
平成19年、歌額を恒久的なアルミ板に取り替えるとともに、増設して36基とした。
平成27年、歌額を更に増設して信綱かるた50首すべての歌額が整備され、信綱かるた道が完成した。
歌額の文字とこれに添える絵は、平成17年、平成19年の場合は辻善衛氏、平成27年については渡部明美氏が担当された。
歌額の部品の取り付けやコンクリート工事は、すべて山口富生氏等ボランティアが行った。
信綱かるた道の北・南端には、それぞれ案内標識と案内マップ収納箱を設置している。

信綱かるた道には、佐佐木信綱記念館のほか道中安全を祈願した地蔵堂、本陣址、信綱の父弘綱記念碑・信綱歌額・幸綱歌碑のある浄福寺、西行・一休・芭蕉・信綱歌碑などのある古い由緒の石薬師寺、源範頼を祀る御曹司社がある。御曹司社南の三重県天然記念物「石薬師の蒲桜」は、広重が版画に描き、これをゴッホが名画「タンギー爺さんの肖像」の中で模写していることでも有名だ。
このほか南端には、東海道開設の頃つくられた「一里塚」址もある。

歴史の薫る道を、信綱の歌を次から次へと見ながら、散策することは楽しい。一度是非訪れてほしい。

信綱かるた道 50首紹介

信綱かるた道の歌額50首を以下に掲載します。
1四日市の時雨蛤、日永の長餅の家土産まつと父を待ちにき
2湯の宿のつんつるてんのかし浴衣谷の夜風が身にしみるなり
3氷りたる水田にうつる枯木立こころの影と寂しうぞ見る
4白雲は空に浮べり谷川の石みな石のおのづからなる
5夕風のさそふまにまにちる花をことありがほに見る蛙かな
6蕎麦の花に百舌が訪ひ来て語らへり山のはざまの秋風の家
7真白帆によき風みてて月の夜を夜すがら越ゆる洞庭の湖
8一すぢの煙をあとにのこしおきて沖をはるかに船はゆくなり(十歳作)
9ふる雪のいや重け吉事ここにしてうたひあげけむことほぎの歌
10目とづればここに家ありき奥の間の机のもとに常よりし父
11まりが野に遊びし童今し斯く翁さびて来つ野の草は知るや
12ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲
13名におへる森の大木のかげふみてあふぎまつらふ神の恵を
14月ごとの朔日の朝父と共にまうでまつりし産土のもり
15夕されば近江境の山みつつ桐畑の隅によく泣きゐしか
16やま百合の幾千の花を折りあつめあつめし中に一夜寝てしが
17障子からのぞいて見ればちらちらと雪のふる日に鶯がなく(五歳作)
18むすべば手にここちよし清き水の今もわきいづるわが産湯の井
19ふるさとの鈴鹿の嶺呂の秋の雲あふぎつつ思ふ父とありし日を
20願はくはわれ春風に身をなして憂ある人の門をとはばや
21天地のあるじとなるも何かせむいかでまさらむ此のゑひ心地
22これのふぐらよき文庫たれ故郷のさと人のために若人のために
23日本語いく千万の中にしてなつかしきかも「ふるさと」といふは 
24なげくなかれ悲しむなかれ日輪は人間の上を照らしたまへり
25いきいきと目をかがやかし幸綱が高らかに歌ふチューリップのうた
26秋高き鈴鹿の嶺の朝の雲はろかに見つつわがこころすがし
27万葉の道の一道生のきはみ踏みもてゆかむこころつつしみ
28今し成りぬ五帙二十五冊を前におき喜びの涙とどめあへなく
29ありがたし今日の一日もわが命めぐみたまへり天と地と人と
30天にいますわが父のみはきこしめさむ我がうたふ歌調ひくくとも
31み空仰げ八重棚雲をおしひらき赫々として初日はのぼる
32山黙し水かたらひて我に教へ我をみちびくこの山と水と
33人の世はめでたし朝の日をうけてすきとほる葉の青きかがやき
34山の上にたてりて久し吾もまた一本の木の心地するかも
35ものぐさのあるじ信綱あさなさな庭におり立つ石南花さけば
36幼きは幼きどちのものがたり葡萄のかげに月かたぶきぬ
37山辺の御井にとくだる山ぞひみち遠松風の音をすがしむ
38国をおもふ心はも燃ゆかたちこそ痩せさらぼへる老歌人も
39蝉時雨石薬師寺は広重の画に見るがごとみどり深しも
40鈴鹿川八十瀬のながれ帯にしてすずか並山あき風に立つ
41どつちにある、こつちといへば片頬笑みひらく掌の赤きさくらんぼ
42花さきみのらむは知らずいつくしみ猶もちいつく夢の木実を
43春ここに生るる朝の日をうけて山河草木みな光あり
44ますらをの其名止むる蒲桜更にかをらむ八千年の春に
45かぜにゆらぐ凌霄花ゆらゆらと花ちる門に庭鳥あそぶ
46道とへばふるさと人はねもころなり光太夫の碑に案内せむといふ
47六つに越え九つにして鈴鹿山ふたたび今日はのぼりけるかな(八歳作)
48投げし麩の一つを囲みかたまり寄りおしこりおしもみ鯉の上に鯉
49呼べど呼べど遠山彦のかそかなる声はこたへて人かへりこず
50生家にゆくと弱かりし母が我をせおひ徒渉せしか此の甲斐川を