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今月の短歌 4月

新墾(にひばり)の歌の廣野のわか草の花さく春になりにけらずや

佐佐木信綱『佐佐木信綱 作歌八十二年』

 

 明治42年、信綱37歳の4月に開催された竹柏会大会において、「春野」という兼題で詠まれた歌である。

「新墾」とは、新たに開墾したこと、またその開墾した田や道などを言う。万葉集に見える言葉である。

新治の今作る路さやかにも聞きにけるかも妹が上のことを(萬葉集2855)

「新治」は「新墾」に同じ。ここでは「今作る路」までが「さやかに」を引き出す序詞となっている。

次の歌は、第2句「今の墾道」で、開墾したばかりの道の意味である。

信濃路は今の墾道(はりみち)刈株(かりばね)に足踏ましなむ沓(くつ)履けわが背」(萬葉集3399)

 「東歌」すなわち東国の農民の歌である。信濃路は新しく開墾した道だから、鋭い切り株に足を踏み抜かないように、沓を履いてね、愛しい人よ、くらいの意味である。

さて、掲出歌は、色々な意味を下敷きにして「新墾」という言葉が使われていると思うが、この歌が竹柏会大会に於いて詠まれたことを考えれば、「新墾の歌」は、明治の世の革新的な短歌、そして竹柏会が「新しく切り拓いた」短歌であろう。その広がりを「廣野」と言い、「わか草」は、そこに群がる若い歌人たちであろう。

新しい短歌の廣野に、今若草の花が咲くように若い歌人たちがひしめき集う春のこの大会であることだよ、という竹柏会大会を寿ぐ歌であろうと思う。竹柏会の隆盛と若々しい歌人たちの活躍を予祝する歌であろう。(短歌鑑賞:森谷佳子)