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今月の短歌 6月 「竹柏蘭」

樹間(このま)もる雨後の日ざしは竹柏(なぎ)蘭の花に花の上に露に匂へる

佐佐木信綱『秋の声』

 

 『作歌八十二年』の昭和29年6月の条に、竹柏蘭(なぎらん)のことが出ている。

さきに伊豆毎日新聞の三木君から竹柏蘭の鉢を贈られてベランダに飾っておいたに、園芸家の加藤光治君が訪われて、かねて研究しておるから行って見たいとの事に、同行して真鶴の林にいった。

 そして、掲出歌を始めとして5首の歌が掲げられている。「真鶴の林」とは、ナギランが自生している場所だと思われる。ちなみに下に挙げた写真は、現在の神奈川県真鶴町に自生するナギランである。掲出歌は、竹柏蘭が自生するという林の中を歩いて竹柏蘭を見たときの光景を詠んだものであろう。雨の後の木々の間から漏れてくる日の光が竹柏蘭の花に、また花の上の空気中の微細な霧にもあたって露のように輝いているというのであろうか。
 さて、竹柏会の名の由来となった高木の梛(竹柏=なぎ)については、2019年10月の本欄で、速玉大社の梛(なぎ)の木を紹介しているが、この梛(竹柏)と竹柏蘭は全く別物である。ナギランは、シュンランの仲間で、常緑広葉樹林の林床に生える花茎10センチほどの小さな蘭である。現在は絶滅危惧種であるという。この花に梛木蘭という名がついたのは、葉が梛の木とよく似ているからであるらしい。葉脈が網状に広がるのではなく、並行に伸びているのが特徴である。(下の写真参照)
 信綱が初めにナギランを贈られたのは、その名のゆえであったろう。ところで、このナギランをたずねての真鶴行きは信綱83歳の時である。林を渉猟してナギランを見つけるのはそう簡単ではなかったであろう。健脚ぶりに驚く。もう一首『作歌八十二年』から、可憐なナギランを髣髴とさせる歌を挙げておく。

(短歌鑑賞:森谷佳子)

 

 まなづるの林の端(さき)の椎がもとなぎ蘭の花のにほひかそけく

 

なお、写真は、「mirusiru.jp」さんより拝借した。